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ひとりだけの卒業式

 私が良く知っている女の子の話です。

 女の子は数日前まで私立高校の3年生でした。女の子は小さい頃から快活で優しい子でした。中学生の時からクラブ活動に精を出し、その甲斐あって、私立高校へも推薦で進学しました。彼女は高校1年生の時、新入生にもかかわらずその実力を評価され、重要なポジションをまかされるようになりました。その頃の彼女はクラブ活動に没頭しており、国立劇場への遠征メンバーの一員としても参加しておりました。ところが当時の3年生が卒業した後、クラブの状況は一変し、当時の2年生中心の編成になった為、彼女のポジションは無くなってしまいました。

 彼女は2年生になり、クラブを退部してしまいました。学校で彼女の財布やノートが無くなったりもしたそうで、先生を含めて人間不信に陥ってしまいました。ずっと打ち込んできたクラブ活動を辞める決心をした時には、彼女も辛かったであろう事は想像がつきますが、その頃から彼女の明るさは無くなっていきました。3年生になると彼女は心の病を発症し、メンタルクリニックでカウンセリングや投薬治療を受けるようになりました。電車に乗れない、教室に行けない、人と話せない等の症状で本当に辛い毎日を送るようになりました。

 そんな状況でしたので、出席日数の問題で、このままでは卒業出来ないとの知らせがあり、父親も学校へ相談に行きました。徒歩でも通えるアパートを借りる為、部屋探しに行ったりしましたが、結局学校の許可がおりませんでした。少なからず学校側にも責任があったので、先生が送り迎えするとの提案もありましたが、彼女の状態を考えた結果、父親が仕事の都合がつく限り送迎することになりました。そんな努力の甲斐あって、公式の卒業式に遅れること4日、彼女は父親の立会いのもと、校長室にて、たったひとりだけの卒業式を迎えることが出来ました。今後、彼女も以前の明るさを取り戻す日が来ることを願うばかりです。

                      不動産部   筒井浩史 

 

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