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ミカン

先日、ニュースでみかんについての話をしておりました。みかんは言わずと知れた冬の定番果物であります。こたつの上で家族団欒を演出し、女性のビタミン不足を補い、子供のおやつにも一役買う、大変優秀かつ便利な食べ物であります。がしかし・・・、異常事態と申しますか、世も末と申しますか、その消費量が20年前と比べると約半分になってしまったということであります。20年前は日本人1人あたり1年間で300個食べていたそうでありまして、今ではそれが150個にまで落ち込んだというのであります。

何も私は愛媛農家の回し者ではございませんが、みかんは箱で買う物という私の認識は、若い人には「おぉ、大人買い」と喝采を浴びるか?「あのオヤジ、頭おかしいんじゃない?」と嘲笑されるか?のどちらかであります。

それでは何故みかんが売れないか?でありますが、昨今の日本人のライフスタイルに起因するとのことであります。昔は居間に、こたつが当たり前。今はリビングに、ソファーと薄型テレビ。当然、ソファーはテレビを直視出来るポジションにありまして、家族全員がテレビを観る体勢を保ち、家族が向き合うなんてことが、ついぞ無くなってしまったのであります。で、その結果、みかんはリビングでは無く、ダイニングへと居場所を変えて、家族を静観するのであります。まるで「我が輩は猫である」の猫のようであります。

それから、女性の美に対する変遷であります。ヘアカラーにエクステンション、ネイルアートに美容整形。みかんと何の因果関係があるかと申しますと、・・・爪であります。
ご存知のように、みかんを食しますと指先と爪が黄色くなります。これがみかんの衰退の原因であります。つけ爪を剥がす可能性とみかんの消費を天秤にかけますと、せっかく数千円払ってネイルアートを施し、みかんにやられたのでは実も蓋もございません。ダイエットを取るか、食い気を取るかと相通ずるものなのであります。そもそも、苦労して食すから、うまさはより倍増するのでありまして、サウナで隣のオヤジより10秒でも長く我慢した後のビールは格別ですし、キャンプ地まで食材を積んで行って、薪で火を起こし、青空の下で食す肉の味たるや、言いようのない達成感さえ覚えるのであります。

すいかは種がめんどくさい、りんごは皮がめんどくさい、ぶどうはいちいちめんどくさい。そんなこと言ってたら、何も食えなくなるのであります。

芥川龍之介の小説にその名も「蜜柑」というのがあります。400字詰め原稿用紙10枚程の超短編小説であります。ある汽車に乗った中年のオヤジは、みすぼらしい13歳ぐらいの少女に気を止めます。発車ぎりぎりに乗り込んできた少女には悲壮感が漂っております。中年オヤジはそれを疎ましく思います。やがて汽車がトンネルに差し掛かったあたりで、少女は中年オヤジの席まで来て、窓を開けてしまいます。車内には汽車の放つ煙が中年オヤジと少女を直撃します。怒り心頭の中年オヤジは、少女を怒ろうとしますが、大人げないのでぐっと堪えます。そもそも何を考えて窓なんか開けるのか?中年オヤジは考えます。すると、窓の外の踏み切りに明らかにその少女の弟と思える3人の男の子が、汽車に向かって必死に手を振るのが見えます。中年オヤジは少女が丁稚奉公に向かう途中だと悟ります。少女は自分のために大事に持っていた5,6個のみかんを弟達に窓から投げてやります。

・・・こんな切ない小説なのでありますが、みかんを甘くみるな!と私は言いたいのであります。爪が黄色くなるから・・・。などと言っておられる貴兄、この少女の爪のあかでも煎じて呑ませてやりたい!

不動産部   加藤一史

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