ゾーン(奇蹟)
「机上の空論」という言葉がございます。はたまた同意語に「砂上の楼閣」というのもございます。辞書をくくればお分かりになりますが、理論上可能なことであっても、絶対に実現不可能なことを申します。若者風に言えば「ウッソぉ~ありえなぁい。絶対無理!」ってな感じになるでしょうか?
ところが1週間程前、理論上可能なことであっても、絶対に実現不可能なこと、が実現してしまったのであります。・・・・和合の芝の上で!
弱冠18歳。無敵の18歳。(こんな息子が欲しい)石川 遼君であります。彼の人生には怒涛のごとく「奇蹟」が訪れます。いや、我々凡人にしてみれば「奇蹟」であっても、彼にしてみれば、ごく普通のことなのかもしれません。凡人には凡人のものさししかございませんが、超人には超人だけのものさしが備わっているのでありましょう。芝の上の遼君と司馬遼太郎に何か関係があるのかどうか?は一切存じ上げませんが、今や押しも押されぬトップスターであることには間違いございません。まさに雲の上の人、うん?坂の上の雲?なのであります。
私が子供の頃、その名も「プロゴルファー猿」なんていう漫画がございまして、木を削ったドライバー1本持って、アプローチからパットまでこなしてしまう文字通り漫画なストーリーの漫画でありました。
池越えならぬ、崖越えをしてみたり、高層ビルのような絶壁のバンカーが現れたり、ある意味、ゴルフを冒涜するようなひたすら笑える「奇蹟」ショットのオンパレードでありました。(注、連続でいいところ、わざわざオンパレードを使っております。)勿論、漫画だから面白いのでありますが、なにもかもバディーじゃ漫画にしたって面白くございません。それどころか、興醒めであります。
ところがこれが現実とあらば、どれだけ完璧な芝居よりも、観客は引き込まれてしまうのであります。アプローチはことごとく2メートル範囲に付け、よしんばアプローチに失敗しても遼君には伝家の宝刀チップインがございます。とにかく、からむからむ、絡むと申しましてもタンではございません。ピンであります。18ホールのうち、12ホールでバディー。遼君の言葉を借りれば「ゾーンに入る状態をあまり知っている人はいないと思うけど、バーディを獲っていく度に落ち着いていきました。」ということになるのでありますが、「ゾーン」これぞ超人だけに訪れる「奇蹟」でございます。
辞書を引用致しますと「ゾーン」とは、地帯。区域。範囲。とあります。ということは、奇蹟の起きる区域に遼君は居たことになるのであります。遼君の「超人」たる由縁は、「ゾーン」に自分が居たことを自覚していた点にございます。「バーディを獲っていく度に落ち着いていきました。」凡人であらば、万が一「奇蹟」が起きそうな時、当然のことながら舞い上がるのであります。舞い上がってその結果、見事しくじるのが関の山、事が進むにつれ、落ち着くなんて「ウッソぉ~ありえなぁい。絶対無理!」なのであります。
っていうか、ゾーンに入る状態?なんて知っている人いらっしゃるでしょうか?クライマーズハイとか、ランナーズハイとか言いますが、私にはせいぜいナチュラルハイぐらいしか分かりません。先日も芋焼酎のおかげで見事ゾーンに入りました。落ち着いていく代わりに、眼が座っていったのは言わずもがなでございます。
私は考えました。「ゾーン」を知るには、自分の持っている限界を突き抜けなければならないのじゃないかと。限界を突き抜ければ、それはもう限界ではなくなって、次の限界が待っている。次の限界までの範囲が「ゾーン」なのではないかと。勿論、私のような凡人以下の人間には、限界はおろか、一寸先すら闇なのでありますから、生きているうちに限界を知るようなことが起きるはずもございません。しかし、私の名誉のために敢えて言わして頂くのであれば、たったひとつ私にも限界をつぶさに見たものがございます。それは、・・・・「体力」であります。とうの昔に限界を越え、腹部に一局集中する脂肪と臨終を迎える死亡とは、少なからず「体力」との密接な関係において成り立っていることを、痛感するのであります。
努力の蓄積が限界への道であることは、私が言うまでもございませんが、努力したって遼君のように「人間ができている」「できた人間」には、なかなか成れるもんじゃございません。そこでどうすれば遼君のようになれるのか?私は無い頭で考えました。
色々考えましたが、・・・・なにをどう考えましても凡人には無理だと・・・。それはまさに、「机上の空論」であることを・・・・。
不動産部 加藤 一史